ものくろ

からっぽの話

私小説「一鬼夜行」 第1話「コバエ」

第1話「コバエ」

「一体どうしてこうなったんだろう」

朝6時、コンビニの夜勤明け、自転車に乗り帰路についたら土砂降りの雨だった

平千春は今月で24才になる
名前の由来は父親が唯一好きな歌手である松山千春に由来している

よく女みたいな名前だと馬鹿にされたが、千春自身はこの名前が嫌いではなかった

千春は秋田県に生まれた。高校は秋田でも有数の進学校に入ったが、成績は後ろから3番目くらいをいつもうろうろしていた。

大学受験に失敗し、宮城の公務員を養成するための専門学校に入学した。特段公務員になろうとも思っていなかったが、とにかく地元を離れたかった。

専門学校に一年間通い卒業したが、やはり大学に入りたいと思い、親に頭を下げ、もう一度大学受験をすることにした。大学で特に学びたいこともなかったが、すぐに社会にでたいとも思わなかった。

結果、24才の千春には専門学校と大学に通うために借りた400万の借金と自称ミュージシャンという肩書きだけが残った

千春は現在自転車を漕ぎながら、どしゃ降りの雨に殴打され、ビートルズのhelpを口ずさんでいる

8月の雨は、思いの他心地よかった。一瞬ではあったが千春の心は晴れた。

家に着くと、千春は静かにベッドに倒れこんだ
台所にはコバエがたかっていた

(明日は死のう)


部屋には、四角い無機質から発っせられるグレゴリオ聖歌の原始的で荘厳な音色が響いていた