私小説「一鬼夜行」 第2話 「杏露中毒」 第3話 「死合わせ」
第2話「杏露中毒」
千春は朝からひどく朦朧としていた
千春には、自分自身を俯瞰で分析する癖がある
そして大抵はネガティブな結論を導きだす
この癖が最近は酷くなり、分析が独り言として口からつらつらと流れ出てしまっている
「この頭痛は煙草の吸いすぎか、もう少し軽いのにした方がいいかな、、」
千春は第一印象が良いとよく言われる。顔は柔和で笑顔も悪くはない。
そのためか、初対面の人によく喋りかけられる
しかし、持ち前の人間嫌いを遺憾なく発揮して友達を作るまでには至らない
また、仮に友達と呼べる関係になれたとしても、千春のネガティブでじめじめした性格を知ると皆去っていってしまう
「そもそも、友達とは、、」
千春は自虐的で、いつもヘラヘラ笑っている
やる気がなく、愚痴ばかりこぼす、他人の為に行動することができない
他人の為に動くというのが何をすればよいのか全く見当がつかないのだ。
相手の気持ちを推し量ることも苦手である
大学時代はボランティアサークルに入り、人の為の行動を学んだつもりだったが、今はまた孤独の殻に閉じ籠り、専ら、社会に対して籠城戦の模様を呈している
とりあえず、朦朧とする頭をどうにかするため、近くのスーパーで買ってきた500ミリリットルの安い杏露酒を脳味噌へと一気に流し込んでいた
(おそらく、100ミリリットルくらいは床を汚すために使われたと思われる)
「床も酒を浴びたい時があるだろ」
千春は朝からまた、自嘲気味に気味悪く笑った
第3話「死合わせ」
千春はいつも朝起きると、自らの寿命・動機・死に様を考える
千春はこの行為を「死合わせ」と呼んでいる
この行為は、ネガティブな動機によって始められたものだが、皮肉なことに思いの外この行為によって、千春の「生」はより鮮やかなものになっていると言えるだろう
「嗚呼、ドラッグをやったら気持ちよいのだろうか、日本国では生憎禁止となっているからなぁ。」
千春はベッドに寝転がり、ダンゴムシのように丸まりながら、思案に耽っていた
「おれは死んだら、天国と地獄どっちに行けるんだろう、そもそも天国も地獄もいまいち実態が分からないよな、、天使は羽の生えたガッキーだったら満足だな、、まぁ確実におれは地獄行きだろうな、、人の為に行動していないからな、、人に求めてばかりの人は天国には行かせてもらえないんだろうな、」
朝から千春の口からぶつぶつとお経のように言葉が漏れ出ていた