或るフリーターの手記

29才フリーター、日々の雑感を記す

心模様殴書 「一鬼夜行」 第8號 「川」

トテトテと歩き回った
方向も感情もぼんやりと浮かばせながら
ただトテトテと歩いたのです

そうしているうちに深紅の川と出会いました
どくんどくんと流れる深紅の川を見つめていますと

川はなにとはなげに私に仰ります
「近頃、私の所には、汚いものばかりが流れてきます。安っぽい何味かも釈然としないワインや、油でギトギトのカップラーメン等、たくさんたくさん理由の分からないものが流れてきます。」

川は続けて仰ります
「どうして貴方は私を汚すのですか?」

私はヘラヘラ答えます
「そんな気分だったのです」

川は呆れた様子で仰います
「川というのは、一度汚れてしまうと中々元の美しさには戻らないのですよ。一時の気分等で汚して良いものではないのです。」

私は悪びれた様子もなく答えます
「私は汚れた風景が好きです。だから、精一杯貴方を汚します」

川は怒って仰ります
「私は貴方なのですよ。私を汚すことは、貴方が本来持つ透明で純粋な魂を血を汚すことになるのですよ。大抵の常識ある人であれば、その本来の美しさを保持することに努めるはずです。私をこれ以上汚さないでください」

私はまた、ヘラヘラ答えます
「いいえ、無理です。私は汚すことをやめることはできません。そういう性分なのです。」

川は懇願します
「お願いですからやめてください」

私は答えます
「やめられないですね」

川はもうどうしても不思議そうに聞くのです
「何故そこまで頑なに汚したがるのですか?」

私は答えます
「近頃、私には汚いということがよく分からないのです。」

「むしろ、汚いものにこそ美を探してしまうのです。その色の複雑さに惹かれるのです。人が避けてしまうものにこそ新しい発見や興奮があると思うのです」

川は諦めたように言います
「貴方は格好つけのナルシストの常識外れです。
汚い川には、美しい魚は棲めません。透明な水面にしか美しい景色は映し出せないのですよ。あなたはひどく能無しの馬鹿野郎です」

私はまた、トテトテと歩きだすことにしました