「荒野をゆく」1 序章
物語の始まりは決まって唐突である
だれであれ、その「始まり」を求めることはできない。いつも、物語は向こうからやってくるのだ
だが、確かに物語は始まった。いや、もっと言えばもう物語も中盤といったところか
人がいつ路に倒れるかは分からない
だが、私は今ここにいる。確かに、陽を浴びている
月光に微睡んでいる。弱々しくも息をしている。
夢を見ている。貧相な飯を喰らっている。
風に揺られ心をはためかせている。ほんとうの幸福を願っている。ほんとうの幸福を探している。
絶え間ない今を、過去を用いて、未来に夢を抱き
生きようと試みている。
きっと、形は違えど、そんなものだろう。
どういう、動機かはうまく言えないのだが、
拙いながらも、私は物語を綴ることにした
いつ絶えるか分からない、一粒の命で、一縷の望みを込めて、私の愛する猫という、ふわふわとした気まぐれなやつらに想いを乗せて託すことにした
ありのままの心で、この短い夢を、奔放に、愉快なものとするために
どんな物語になるかは分からないが、とりあえず書き出すことから始めよう
きっと、どんな偉業をなした偉人も最初の一歩はどれほど頼りないものだったかと想像する
だが、彼等彼女等は踏み出したのだ
迷いながらも踏み出したのだ
その道程では、ねじれ、さらし、叫び、その慟哭は凄まじいものだったろう。(あるいは非常に稀有な楽天的精神で歩んだものもいたかもしれないが)
だが、とにかく、歩きだそう。一歩一歩踏んで行こう。大地を
「荒野の街」
風は強く吹きつけた
枯れ木は忙しく揺れた
雨が造った小さな水溜まりの水面は波立ち
雲はひゅーと西へ流れた
一筋の光が荒野を裂いた
マヴロの眼は開かれた
砂粒が風に舞い、マヴロの眼を小機関銃が襲った
「ついてねぇ、、」
マヴロは木の根元に枕がわりに置いていた、リュックサックを手に取り、肩に背負った
黒の毛並みは、長旅でボサボサになっていた。
陽光によって、ところどころ、焦げ茶色の毛もあった。
陽は強く、照っていた
喉はだれて、食料は手持ちの煙草が2本と水筒に水がわずか、乾ききったパンが3切れという有り様であった。あとは古びたギターが一本だ。
体はボロボロ、足は力なく震えていた
風が収まり、砂の嵐が去ったあと、遥か遠くに街らしきものが見えた
「おれはついてるねぇ、、」
マヴロは低く言った
震える足をゆっくり前に押し出した
ふらつきながらも確かな意志で
旅猫は歩き出した