或るフリーターの手記

29才フリーター、日々の雑感を記す

心模様殴書 「一鬼夜行」 第18號 「喧嘩祭」

ヌワールは退屈そうに尻尾をカリカリ掻いていた
近頃何をやっても、心を握り潰されているようで
どうにも儘ならなかった
「あぁ、たいくつだたいくつだ」
からんからんととドングリのチャイムが鳴りました
「はいはいどなた?」
ヌワールがドアを開けると誰もおりませんでした
少し首をかしげてドアを閉めました
ヌワールが七星社製の煙草を一本とりだしプカプカやっていますと、またからんからんとチャイムが鳴りました

「おーい、ヌワールさんおりますか」
からっとした声がドアの方から聞こえます
「はいはいどなた?」と出てみると
風の郵便屋さんでした
「ヌワールさんにお知らせを持ってきました 」
風は爽やかな笑みを浮かべ伝えました
「一体何かな?」
ヌワールは風に聞きました
「近々この街で、喧嘩祭が行われるので、ヌワールさんにもご報告をと思いましてね」
風は飄々と言いました
ヌワールは風の飄々とした態度がどうも嘘くさくて苦手でした
「もうそんな時期ですか、私は人と衝突するのは勘弁ですので、今年も家で引きこもっておりますよ」

喧嘩祭は年に一度のお祭りだ
どんな喧嘩も許されるし、殺人も罪にならない唯一の日である。要するに無礼講の日だ。道徳も法律もなくなる。

ただ、唯一やってはいけないことがある
他人に優しくすることだ

喧嘩祭の日に優しくしたものは、終身刑となる

「開催は3日後です、気が向いたら喧嘩祭ご参加下さいませ♪」

風の向くまま、気の向くままに、風の郵便屋さんはぴゅうぴゅう鼻歌を唄いながら次の家へと向かうようであった

ヌワールは近くのコンビニまで煙草を買いにいった
「いらっしゃいませ」
タヌキ店主はだらだらした口調で言った
そして、ヌワールに気がつくと、愉しげに
「おぉ、ヌワールさん、聞いたかい、今年ももうすぐ喧嘩祭らしいよ」と言った
ヌワールは返答するのもめんどくさかったのだが
「あぁ、らしいね、77番の煙草」と言った
タヌキ店主は嬉々として、喧嘩祭について語ろうとしてきたが、ヌワールは気にせず店を出た

煙草に火をつけ、街を眺めていると、下水道の方から「ヌワールさん、ヌワールさん」と呼ぶ声がした

ネズミが話しかけてきた
「ヌワールさん、もうすぐ喧嘩祭ですね」
ヌワールはまたかと思いながらも「そうだね」と言った

「ヌワールさんも今年は参加したら如何ですか?こんなに気分の晴れる祭はありませんよ」
ヌワールは応えに困り、
「考えておくよ」と言った

喧嘩祭のために他の町からはるばる来るものもある
ヌワールは喧嘩祭がそれほど面白いものとは思えなかったため、毎年その日は一日中家に居て、誰とも会わないように努めるようにしてきた

今年もそのつもりであった


「光茫見えても流転を好む」

甘いのは煙草の香り
苦いのはチョコレート
好きなのはなんだろう
嫌いなのはなんだろう

どかどかどかどか打ち鳴ら去れるドラム缶
空っぽの音は虚しく五月蝿い
希望の説教はお手すきのときに

手にあまる幸せは砂のようにこぼれ落ち
海がさらっていきました
砂の粒子、銀河の曙光
その価値を知るには私はあまりに無知でした
それでも悔いては行けません
それでも悔いては行けません
それでも悔いては行けないのです

貴方の選んだ道だから
貴方が選んだ道だから

それでも行かねばならんのです

嗤われても
泣かれても
虐げられても
孤独でも

たとえ、理解してくれる人が一人としていなくても、それでも行かねばならんのです

貴方を信じたのが、貴方だけでもいいではありませんか、一人でも信じて終えることができたなら、こんなに素敵なことはないのだから

凛として淡々と逝きましょう
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