或るフリーターの手記

29才フリーター、日々の雑感を記す

2022 0401

― 肥大する。頭だけが。走らないから、痩せないのだ、、―

 

夜の海に、本を浮かべ

平西は

水面にちりばめられた星のような文字を追いかけていた

 

一 或るフリータの話

 

大学を卒業し、就職も就活もしなかった平西は

週5日の深夜のコンビニバイトを始め4年が経っていた

仕事は割とすぐに慣れた。

しかし、夜勤勤務者の往々の悩みだと思うが、いつ・どのくらい眠るべきか

という問題はいまだ彼の悩みの種である

 

3年くらいは分割睡眠をとったり、ショートスリーパーになれまいかと挑戦してみたり

色々、良い睡眠方法を試行錯誤していた

 

店長に「平西くん、ちゃんと寝れてる?」

と聞かれた時

「一日なんて3時間ぐらい寝りゃ何とかなりますよ」と

根拠も体力もなかったのだが、口だけは軽いので

5つほど年上の店長にしたり顔で述べ苦笑を引き出した

 

ビート文学に憧れ ロックンロールをわが宗教と定め男は

夜の嫌になるほど機械的な攻防戦を切り抜けたのちは

ウイスキーやら焼酎やらを浴びるように飲み

煙草をスパスパ

およそ時代錯誤の

ムチャクチャな生活リズムで

突っ走っていた

 

(おらぁ荒野を切り開く、、)

 

アコースティックギターを大学時代からいじくり始めた彼は

卒業と同時に曲ならざる曲を書き始め、それをスマートフォンに向け

がなり立てる マイクなどの録音環境のこと、聴衆のことなどは、一切

深く考えることもなく、気合だけでそれを3年間繰り返していた

 

だが

 

その結果、去年

 

「うーん、逆流性食道炎だね、、」

 

医師に微笑されながら告げられた

 

(なんにそれ、、??)

 

逆流性食道炎は要因は様々あるが、現在は若者にも増えている

病らしい。胃液があがってきて、うわーってなるやつだ

 

平西は喉の違和感には気づいていた

朝方、品出しをしているとのどまで何かが込み上げてきて

息がしづらくなるのだ、

しかし、医者嫌いのため1か月放っておいた、、

 

 

逆流性食道炎なんて言葉すら知らなかった彼は

緑茶と煙草でムリヤリそれを鎮めようとしていた

(しかし、後にそれが逆効果であったことを知る)

 

(ああ、おれ、本当にそろそろ、死ぬんかねぇー、なあんにもできねーで

親にもなぁんにも返せねーで)

 

平生、ど楽天家の彼も流石に1週間ほどそのことで悩んだ

 

普段は軽く見下している、一回り年上でさぼり屋の同僚である加藤氏にも

「おれぁ、こりゃ死ぬかもしれんっすわー」

と弱音をこぼしたほどだ

 

加藤氏は、事務所の椅子に凭れ掛かっていた姿勢を少し正し

いじくっていたタブレットの手を止め

「人間そんなもんっすヨ」

と励ましにもならない

励ましをくれた。しかし、普段は事務的な会話ばかりであったから

また、コンビニの夜勤のシフト、その時、日本人は平西と加藤のみであったため

この加藤の言葉は意外にじんわり温かかった。

 

現在、平西は漢方薬と胃液の分泌を抑える薬を処方してもらい

肉魚、刺激物を控え大人しくしている

 

煙草も酒も、もうすっかり吸わなくなった、、

ロックンロールも聴いていない

 

ブルーハーツ エレカシ ミッシェル オアシス フジファブリック

スライダーズ 奥田民生 斉藤和義 どんと 清志郎、、、、

 

一時は真冬を真夏にさえ変えてくれた彼らを眠らせて

まだ寒さの残る4月のはじめ、彼は先月通販で買った椅子に座り

堀田善衛という作家の『路上の人』に夢中になっていた